日本の性実情(Ⅲ)
梅毒について
今回は性感染症について説明させていただきます。
感染してしまうと長期間治療が必要なHIVや特に近年増加している梅毒について詳しく解説します。
梅毒の特徴
「梅毒トレポネーマ」という細菌のせいで起こる性感染症で、感染に気付かず放置してしまうとのちのち心臓や脳に合併症を引き起こします。
近年日本での感染症者が増加していることが問題になっており、2022年には感染者が1万人を超えるほど急増しています(1)。特に女性が感染したまま妊娠した場合、適切に治療しないと子供にも悪影響になってしまうので危険です。
梅毒の症状
感染してからの期間によって、出てくる症状は異なりますので時期に分けて説明します。
● 潰瘍(かいよう)とリンパ節のはれ、脱毛
感染して数週間で起こります。潰瘍というのは粘膜が荒れてしまう状態で、主に性器や肛門、口の中など梅毒トレポネーマが侵入した部分で発生します。ほかには足のつけねにあるリンパ節がはれることもあります。どちらも痛みがないことが多く、放っておくとよくなってしまうので感染に気付かないこともあります。これ以外にもまゆげや髪の毛が抜けてしまうような症状が出る場合もあります。
● バラ疹(ばらしん)
感染していることに気づかず数カ月がたつと、細菌が全身にひろがって次の症状が出てきます。バラ疹とは皮ふの症状で、小さなバラに似た薄い赤い色の発疹(ほっしん)が手足や体にでてきます。この症状も数週間で自然によくなりますが、梅毒は治っているわけではありません。
● ゴム腫(ごむしゅ)、大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)、歩行障害
感染して数年ほどたつと皮ふや筋肉、その他体のいろんな臓器にゴムのようなかたい腫瘍ができます。適切な治療がおこなわれないままに10年経過すると、血管や神経に梅毒が障害を引き起こし、結果として大動脈瘤ができたり、歩行障害や認知機能が悪化してしまいます。最近は検査や治療が進歩してきたので、ここまでの状態になることは少なくなっています。
○どうやって感染するか
基本的には性行為によって感染します。具体的には性器同士の接触、アナルセックス(性器と肛門)、オーラルセックス(フェラチオ・クンニリングスなど)です(2)。
○治療方法
ペニシリンという抗生剤を使います。基本的には4週間ほどくすりを飲む治療ですが、治療を始めた時に病気が進行していればしているだけ何週間も治療する時間が長くなっていきます。
HIVについて
HIVの特徴
いろんな感染症と戦う免疫力が低下してしまうAIDS(エイズ)を引き起こすウイルス感染症です。1983年に見つかった比較的新しい感染症ですが、現在では世界で有数の感染者がいる恐ろしい病気です。感染したあとはウイルスが体の中で増加しないように薬を飲みつづけないといけないため大変な病気です。感染に気付かないままAIDSを発症してみつかる「いきなりAIDS」が一定数いることも問題視されています(3)。
HIVの症状
● 急性期
感染して2~4週間がたつと、多くのひとに熱やリンパ節の腫れ、のどの痛み、関節痛などが起こります。1~2週間すると梅毒と同じように症状がよくなってしまいます。この期間は感染していてもHIVの抗体検査では、陰性になってしまうこともあるので注意が必要です。
● 無症状期
感染してから数カ月がたつと、症状がなにもない時期に入ります。この期間にHIVがなにも悪さをしていないかというとそんなことは全くなく、活発に免疫にかかわる細胞を破壊しています。ここからAIDS発症までは数年から10年ほどといわれています。
● AIDS期
いよいよ免疫の細胞が少なくなってくると、普段ではかからないようなさまざまな感染症が起こってきます。適切な治療を行わないと数年で命を落としてしまいます。
○ どうやって感染するか
感染経路として危険なのが、血液の接触とセックスです。とはいえ、精液のなかのウイルスの量は血液よりも少ないので、カップル同士でセックスによる感染の確率は1000分の1といわれています(3)。ちなみにアメリカでは薬物中毒のひとの注射のまわし打ちで感染する場合もあります。
○ 治療方法
HIV感染やAIDSの発症が判明したら、早期からHIVの量を減らす内服薬を開始します。この治療が始まったころ、感染したひとびとは1日10錠以上のくすりを飲まなければならず大変でした。しかし現在はくすりの改良・開発が進み1日1~2回の内服で患者さんの負担はすくなくなってきています(4)。
● 混合感染に注意
なぜ今回この2つを紹介したかといいますと、梅毒とHIVのどちらにも感染しているひとがいるからです。特に日本ではHIV感染者で梅毒にもかかっているひとが多いため注意が必要です3)。特徴として、梅毒の症状が早く起こること、治療をしたのに再発が多いことが挙げられます。こうした特徴があるひとにはHIVへの感染も疑ってどちらも検査を行うのが大切です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?どちらも怖い病気ですが、共通するのは感染の予防が大切なことと早めに治療を開始することが大切ということです。感染を防ぐためにセックスはコンドームを使うことである程度の予防はできますが100%の保証はありません。心あたりや心配な症状があったひとはぜひ一度検査をうけることを検討してみてください!
参考
(1)NIID 国立感染症研究所
(2)厚生労働省 梅毒に関するQ&A
(3)安元慎一郎,今福信一. STI 性感染症 アトラス 改訂第2版. 廣済堂, 2019, p38-65,126-146
(4)UpToDate Acute and early HIV infection: Treatment
著作:松田 陽(マツダ ヒナタ)先生
平成29年に医師免許を取得。
大学病院、市中病院で初期研修を行い現在泌尿器科医として日々研鑽を積んでいる。